2018.02.02【寄席 オン・ザ・ルーフvol.02】イベントレポート

2月2日、佐賀市呉服元町にて「寄席 オン・ザ・ルーフvol.2」が開催されました。

この日の出演者も前回と同じお三方。天性の明るさと江戸前の口跡が魅力の「柳亭 小痴楽」さん、創作落語で注目を集める「瀧川 鯉八」さん、そして講談界の風雲児とも言われる「神田 松之丞」さん。会場はON THE ROOFビルディング2Fのレミネスでした。なんと今回も前売り券は完売という人気ぶり!

「がばいすごか! 行列だ!」

普段佐賀の街なかを歩いていると、滅多に行列に遭遇することはありませんが、この日は開場前に30人ばかりが並ぶ列。冬だというのに、会場入り口付近には熱気が感じられました。

さて、開場は18時30分。まもなくです。この時すでに私の心の中には寄席の一番太鼓の音。

定刻となりいざ中に入ります。お客さんは年配の方が中心かな? と思いきや、案外若い男女も多く、老若男女の幅広い層の心をひきつける「旅成金」のお三方に、大きな期待が膨らみました。そう、私自身はこの日が初めての寄席体験。正直、勝手はわかりませんが、だからこそ期待半分、ドキドキ半分。いつもながら、素直に見たものや聞いたものを自分の感性で受け止めようと心に言い聞かせました。

会場には既に高座や照明などセッティングは万全。この日の会場「レミネス」は、佐賀市柳町にある写真館「ハレノヒ」が運営する貸衣装屋さんで、今回はそこの撮影スタジオが興行小屋となっていました。高座のバッグにはスタジオらしく、撮影用のペーパースクリーン。しかも色はピンク。案外寄席の和の雰囲気とうまく調和。落語に新作落語と古典落語があるのと同様に、このスタジオは古さが新しいデザインで引き立てられており、どことなく落語との親和性が良くなるのは、当然のことなのかもしれません。

などと、考えているうちに開演の19時を迎えました。

まずは会場である「レミネス」を経営する、写真館「ハレノヒ」代表笠原氏の挨拶でスタート。「ハ・レ・ノ・ヒ」というとひらがなの方が世間を騒がせていますが、笠原氏はそれも踏まえた上で、この日の観客への感謝の気持ちと、自身の事業に対しての想いも織り交ぜて、スマートかつ紳士的に挨拶されました。

それが終わり、いよいよ待ちに待った開演です。

まず開口一番で高座に上がったのは、柳亭小痴楽さん。小痴楽さんは旅成金の最年少ながら、芸歴は最も長く、古典落語を得意とする本格派です。まずは旅成金としての道中の話をまくらとして披露。小痴楽さんは自分ひとりではなかなか起きられないらしく、ホテルで寝るときは入り口を閉めないとのこと。朝まだ寝ていると鯉八さんから電話があり、それでも起きないとすぐそばに松之丞さんの顔があって起きるんですよ~という話で会場が温まり、そのまま本編『磯の鮑』へ。この話は、まだ吉原未体験の与太郎という男性が主人公。与太郎は知人に「女郎買いの師匠」がいるとだまされ、その人のところに通います。そこで吉原のしきたりについて指南してもらい、いざ吉原へ。与太郎がはじめて女郎買いに出掛けて奮闘していく・・・という内容です。これが古典落語かと感心しながら、自然と心は江戸の世へタイムスリップしました。

そして二番手は瀧川鯉八さんでした。鯉八さんは新作落語を得意とされ、著名人にも多くのファンを持つ噺家さんです。まくらとして前回の旅成金公演の一コマからスタート。鯉八さんは全国津々浦々まわった中で、お世辞抜きで佐賀が一番良かったらしく、さりげなく観客の心をつかみます。そしてこの日の興行小屋の話題へ。「なんともいい匂いがする小屋だ。小屋なのにフレグランス」「そしてこの小屋の名はハレノヒ、あ、話題のね。字は違うそうですが」という旬のネタから、そのまま本編の『やぶのなか』へ進みます。話の登場人物はある夫婦と嫁の弟、弟の彼女の四人。それぞれが思い描いていた心情が、絶妙にかみ合わずやりとりが痛快。特に嫁と弟彼女の間の溝が、世代の差に留まらない、何とも言えない深さとリアル感に面白さを感じました。笑いのツボは「メルシャン」でした。

そして時は20時となり、仲入りへ。既に会場はお二人の落語で十分すぎるほど温まっているようでした。

三番手は、講談師である神田松之丞さん。松之丞さんは落語芸術協会の二ツ目ユニット“成金”唯一の講談師。TVやラジオにも多数出演している講談界の風雲児です。この日の演目は15分ほどの長さの『鼓ヶ滝』。まくらとしては、講談師を落語家と比べた話。落語家は約900人、95%が男性。そして講談師はその10分の1の人数で半数以上が女性。そしてそんな少数派の男性講談師の中で、頑張っているのが神田松之丞なんですよ! という話で、そのまま本編『鼓ヶ滝』へ入りました。話は歌人である西行とある民家の住人とのやりとり。西行の歌を称賛するも上の句の手直しを所望する主人。そしてそれに続けと中の句の手直しを願う老婆。それで完璧かと思ったところに、下の句の手直しを願う孫娘。その手直しを入れる話のリズムと、随所に張り扇で釈台を叩くパンパンという音が絡むタイミングが絶妙でした。

そして最後のトリは再び柳亭小痴楽さん。演目は『佐々木政談』でした。

まくらとして切り出されたのは、小痴楽さんが子どものころ、兄とプロレスごっこをした話。そんな子供時代の話に絡めて、いざ本編『佐々木政談』へ進みました。話は街のお奉行さまと子供の四郎吉とその親のやりとり。それが痛快で実に面白い。奉行の言葉にことごとく頓智で返す四郎吉。それを見て冷や冷やする親、四郎吉に納得させられる奉行。その繰り返しと小痴楽さんのテンポが相まって、終始心躍らされる時間となりました。

そんなこんなで、あっという間に全ての演目が終了しました。

ふと周囲を見渡すと、多くの観客はまだまだ興奮が冷めやらない様子。すると、間髪いれずに出口でCD販売の音頭をとる松之丞さんに、どっと笑いが起きました。

今回、初めて寄席を体験しましたが、オン・ザ・ルーフ、そしてレミネスという空間だったからこそ、敷居を高く感じることなく、初めての私でも楽しめたのではないかと思います。早くも、第三回目の寄席もやって欲しい!と期待が膨らんできました。

(文/庄野 雄輔)

(写真/笠原 徹)

【寄席オン・ザ・ルーフvol.2】

平成30年2月2日@ 佐賀・呉服元町 ON THE ROOFビルディング 2F レミネス

一、磯の鮑 柳亭小痴楽

一、やぶのなか 瀧川鯉八

お仲入り

一、鼓ヶ滝 神田松之丞

一、佐々木政談 柳亭小痴楽

2018.02.02【寄席 オン・ザ・ルーフvol.02】イベントレポート